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2012年9月30日 (日)

『写楽』

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カラーブックス908「写楽」内田 千鶴子 著(平成11年初版、現在品切れ)

保育社カラーブックスシリーズの魅力をたっぷりとご紹介する「カラーブックスの達人」ブログ。第120回目は、パッとあらわれパッと消えたカラーブックスをご紹介いたします。今回は、「しかしてその実体は…(片岡千恵蔵の声で)」な一冊、『写楽』です。

浮世絵師・東洲斎写楽…、子どもの頃から図書館でその作品集などを見るたびに、どこか謎めいたイメージがありました。私の場合、昔、富士ゼロックスから発売されていたハンディ転写マシン(ハンディコピー機)「写楽」(しゃらく)のことを思い出します(覚えていますか?30代以上のみなさま?)。また、1980年代には「写楽」(しゃがく)という写真雑誌もありました(覚えていますか?40〜50代の男性のみなさま?)…さて、この写楽という絵師、実はたった10カ月だけ活躍し、145枚の絵を残してこつ然と姿を消した正体不明の謎の画家でした。昔はよく葛飾北斎説や蔦屋重三郎(写楽の絵を売った出版人)説が盛り上がりましたが、実は江戸考証家、斎藤月岑(げっしん)という人物が1844年の編著に「写楽、天明、寛政年中の人。俗称斎藤十郎兵衛、居江戸八丁堀に住す。阿波候の能役者也 号東洲斎」と明記していました。つまり、写楽は阿波(今の徳島県)の能役者「斎藤十郎兵衛」という人物だというのです。この記述はドイツ人浮世絵研究家ユリウス・クルトが評伝『SHARAKU』(1910年)に取り上げ、クルトが写楽をレンブラント、ベラスケスに次ぐ世界三大肖像画家だと書いたことから、世界的な画家として注目を集めるようになりました。しかし、この斎藤十郎兵衛説の根拠となる研究がなされない状態が昭和20年代まで続いたため、立証する史料不足を理由に、昭和30年代以降、北斎説やら出版人説やらが盛り上がってしまったようです。他人説が盛り上がっている最中も阿波能役者説の研究は続けられ、長年の考証の結果、斎藤十郎兵衛という人物が八丁堀の地蔵橋のたもとに住み、写楽が活躍した年に33歳だったことが史料により立証されました。画家として脂の乗る時期と考えても説得力があります。長年、謎の浮世絵師とされてきた、写楽。その人物像は近年になってようやく判明していたのです。

閑話休題。今回ご紹介するカラーブックスは、写楽が活動期間10カ月の間に残した全作品145枚と版下絵18点を掲載、斎藤十郎兵衛であるという謎も解説する、読めばあなたも写楽通になれる一冊です。著者は、1979年より写楽研究を続けている、映画監督の故内田吐夢氏次男の有作氏婦人、内田千鶴子氏。内田氏は、「はじめに」で以下のように語っております。

「この正体不明の浮世絵師をめぐって、昭和三十年代から平成五年頃まで数十種類の写楽別人説が輩出し、出版界をはじめ映画、テレビの映像分野を大いに賑わした。その多くは、高名な絵師や戯作家、及びその周辺の関係者が写楽を名乗って役者絵を描いたという説であるが、そのいずれも裏付けとなる実証資料に乏しかった」

たしかに、マスコミはすぐ「○○説」というものを大げさにしかも確たる証拠もないままにロマンチズムだけで盛り上げる傾向があります。私はこの話を書いているうちに、かつて問題になった「東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)」捏造事件のことを思い出しました(詳しく知りたい方は、関連書籍がいくつも出ているのでご一読を)。また、卑弥呼がいたとされる邪馬台国の九州説、畿内説などもそれに通じるものがあります。写楽は、ようやく当初の「本人」説が立証されたようで、謎が解けて「ご本人」も報われて良かったなと思うのでした。それでは、そんな写楽が描いた、顔の特徴を誇張して描きすぎて役者からクレームがはいったとも言われる「イイ顔」の役者絵の数々をゆっくりとご堪能ください。イーヨーッ!ポンッ!
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↑三代目沢村宗十郎の大岸蔵人 大判(寛政6年5月都座興行 時代狂言「花菖蒲文禄曽我」より)
今の中村勘三郎みたいな典型的な歌舞伎顔でござる。持ってる扇子の雲のような渦巻き模様がセンスあるじゃぁござんせんか
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↑二代目小佐川常世の竹村定之進妻桜木 大判(寛政6年5月河原崎座興行 時代世話狂言「恋女房染分手綱」より)
どこか大貫妙子を思わせる顔つきがキュートじゃありませんか。私も下町(ダウンタウン)へ繰り出そうかな
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↑二代目沢村淀五郎の川つら法眼と坂東善次の鬼佐渡坊 大判(時代物切狂言「義経千本桜」より)
右「こら!わしのオハギ食べたの、お前か!」左「おれじゃねえよ。証拠あんのかよ!」と言っているのかどうかはわかりませんが、左の方はモミアゲが大変なことになっていることだけは確かです
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↑「橘屋中車」三代目市川八百蔵の八幡太郎義家、実は源吾成重 間判
「絶対に流行るからって言われて、美容師さんにこの髪型にされたけど、本当に流行るのかな、これ?」流行りません
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↑相撲絵 大童山の鬼退治 大判
「はい、六本木や麻布の盛り場で暴れてる鬼(ワル)どもを退治しました」と言ってる元朝青龍ではありません

さて、いかがでしたでしょうか? 今回ご紹介いたしました『写楽』は品切れ中ですが、芸術入門のカラーブックスは在庫があるようです。この機会に是非どうぞ。ご購入希望の方はコチラ←から。今回は、写楽さんのお墓にお参りに行きたくなる一冊『写楽』のご紹介でした。

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